「廃園の鬼」(横溝正史)

金田一耕助の事件簿028

あえて事件を解決せずに迷宮入りさせる金田一

「廃園の鬼」(横溝正史)
(「壺中美人」)角川文庫

建築学上のあらゆる法則を
無視した不可思議な建物は、
未完成で放置され、化け物屋敷と
呼ばれるにいたった。
その化け物屋敷の展望台の上で
もみ合う一組の男女。
金田一耕助と橘署長の眼前で、
女が突き落とされる。
金田一は…。

横溝正史没後40年&生誕120年記念で
復刊された角川文庫「壺中美人」に
併録されている短篇作品です。
本作品の特徴はずばり、
「あえて事件を解決せずに
迷宮入りさせる金田一」ということに
なるでしょう。

【事件簿File-028「廃園の鬼」】
〔事件発生〕
期日の具体的記載なし
※ただし「東京のほうで立てつづけに、
 ふたつほどやっかいな事件」後との
 記載あり。
 「堕ちたる天女」「壺中美人」事件か。
 だとすると昭和29年5月の可能性。
(場所:長野県T高原)
〔依頼人〕
該当なし ※自ら事件を目撃
〔捜査関係者〕
橘署長
…那須署署長。
 「犬神家の一族」事件の担当だった。
〔事件関係者〕
高柳慎吾
…元S大学教授。著述に専念。
高柳加寿子
…慎吾の妻。元レコード歌手。
 何者かに殺害される。
伊吹雄三
…加寿子の最初の夫。映画監督。
都築弘
…加寿子の二番目の夫。新聞記者。
小泉玄蔵
…元S大学教授。高柳慎吾の友人。
佐竹恵子…加寿子の友人。
加納史郎…学者。高柳の弟子。
原信造
…資産家の息子。故人。
 化け物屋敷建築者。

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今日紹介した本

本作品の味わいどころ①
奇妙な舞台設定、化け物屋敷

横溝特有の
おどろおどろしい舞台設定です。
「家を取り囲む堀」
「高い塀」
「秘密の抜け穴」
「物見台」
「表現派の舞台をそのまま建築に応用」
「線も面も円もすべてのものがいびつ」
「奇妙なくいちがい」
「人間が垂直に立って歩くのが、
不自然なような錯覚をおぼえる」
「すべり戸か、
電気じかけのどんでんがえし」
「三角とも五角とも八角とも、
分けのわからぬ孔」と、
書き出すのが容易でないくらい、
建物のはちゃめちゃさが
記述されているのです。
いったいどんな建物だ!?

本作品の味わいどころ②
三度目の結婚、無邪気な花嫁

そこに登場するのが
恋多き女・加寿子です。
現在の夫・慎吾とともに、
那須高原のホテルに
逗留していたところ、
最初の夫・伊吹、
二度目の夫都築が現れたのですから、
何かが起きて当然です。
しかも都築にいたっては、
新聞の文字の切り貼りでつくられた
偽手紙でおびき出されているのです。
いったい誰が仕組んだ罠なのか!?

本作品の味わいどころ③
金田一の目の前で起きた事件

そして事件は金田一耕助と橘署長の
眼前で起きてしまいます。
名探偵と所轄署署長の目の前です。
当然すぐに犯人を逮捕しなくては、
金田一も警察も面目丸つぶれで
あることはいうまでもありません。
しかし事件は迷宮入りします。
金田一はあえて真相をうやむやにし、
己の名誉失墜も顧みず、
深い人情家である一面を見せるのです。
その解決部分の味わいは、
金田一シリーズでも
屈指の出来映えです。

ネタバレをするわけには
いきませんので、
「あえて事件を解決せずに
迷宮入りさせた」、
その本作品の肝の部分については
読んで確かめていただくしか
ありません。
金田一ファン・横溝ファン・
ミステリファン必読の一篇です。

(2022.5.13)

sebastian del valによるPixabayからの画像

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